近頃の俺の悩みといえば、それはもう色々ある。明らかに年下な癖に、家庭教師という位置をもぎ取った赤ん坊だとか、怒るとどこに持っていたか知れないほど大量の爆弾を取り出すヘビースモーカー(俺は、彼はどこぞの猫型ロボット宜しく、どこかに異次元ポケットを持っているのではないかと睨んでいる)だとか、少々抜けているけど一般人だと思っていたのにいつの間にか笑いながら刀を振り回していた友人だとか、あれ、これって結構前からのことじゃないか。とにかく、差し当たった眼前の悩みというのが、某フルーティカットないかれた髪型のクフクフ笑う迷子(というと彼は「六道輪廻を彷徨っているだけです」とむくれるのだけれど、無宗教の俺に言わせればそれは甚だしく遺憾な主張で、彼は既に人生を間違えた方向へ突き進む暴走車である。何が世界大戦だ。ベタにも程がある)なわけで。いや、これも結構前のことだけど!事態は更に悪化の一途を辿っていまして。
とりあえず、善良な一般市民の好奇の目に晒されるのは、俺としても大変、物凄い速さで擦り減る神経に悪いので早々に俺の足を地面に降ろさせて、早々に俺を家に帰して安心させてくれたりすると嬉しいんですが。

「良いじゃないですか。価値を知らない人間と目線をわざわざ同じにする必要なんかないんですから」

そうですか。相変わらずジャイアンよりもジャイアニズムと我が道を歩いているようで。




例え間違った方向だとしても




クフフ、と奴は笑った。ついうっかり漏らしてしまったとでもいうような、口から噴き出したクフフ、である。それを聞いた途端、辺りの気温は摂氏数度下がり、俺の血の気は重力に従い真下へ引いていった。あまりの速さに目眩がする。


「…楽しいか?」
「ええ、楽しいですよ」


にこり、と奴は微笑んだ。後光の差しそうな、煌びやかな笑顔である。恐らく面食いの女性は固まってしまうのではないか。俺はこいつの中身を嫌というほど知っている(一時期命さえこいつのせいで危ぶまれた)ので、騙されないけれど。いや、ぐらつくぐらいは目を瞑るとして。


「俺は楽しくない」
「僕はとても楽しいです。じっとしてて下さい」
「嫌だ放せ触るな俺をお家に帰して」
「我が儘ですね」


誰か、どちらが我が儘かをこいつに教えてくれ。俺じゃないはずだ。


「もう、なんなんだよ!俺は女じゃないんだぞ!?」
「見ればわかりますよ。どうみても君は女のような柔らかさはない。貧弱さはもしかしたら君の方が勝るかもしれないですがね」


いちいち人の気に障ることを笑顔で言う嫌な奴だ。そこは変わりない。どうせ退廃するなら短所にしてくれれば良いものを。飽くまで人の思惑には填らない奴。腹立つ。


「…繰り返し言うけど、俺は女じゃないぞ」
「君もしつこいですね。知ってますよ」
「じゃあ、膝に男を乗せることは変だって、わかるよな?」
「傍から見れば奇妙珍妙な光景ですね」
「そこまで良識があること自体が俺には驚愕なんだけど、」
「失礼ですね」


抗議の声は無視した。


「女じゃない俺を膝に乗せる光景が周りから見ればどれだけキミョウチンミョウな光景か、わかるよな?」
「そうですか?」
「あーもう!会話をする努力と相手が何を求めてるのか理解する努力をする努力を先ずお前はしろ!」
「今努力を何回言いました?」
「聞く耳持たず!?」


クフフ、奴は笑う。それはもう、楽しそうに。これは年季の入った聞く耳持たずなことである。俺はきりきり痛み出した胃を押さえ、とりあえず奴の膝から降りようとした。


「…むくろ」
「クフフ、何ですか?」
「俺の腹に回した腕を今直ぐ退けろ」
「嫌です」
「ねぇ俺をお家に帰してよお願いだから!」
「怯えるボンゴレの頼みとあらば、と言いたいところですが魅力的なそのお願いは辞退させて頂きます」
「何!?何がしたいわけお前は!」
「デートです」


果て?デートとは俗に相思相愛に及んだ男女が一緒にどこかへ出かけることではなかったか?比較するまでもなく、俺はこいつと相思相愛になった覚えはないし、それ以前に男同士なんだけれどこの場合立ち位置を考慮するのならば俺は女扱いというわけですか。そんな馬鹿な。


「俺は女じゃないぞ?」
「君は同じ遣り取りをして楽しいですか?」
「だってお前、デートってそんな、」
「嗚呼そういえば日本は順序があるんでしたっけね。先に告白でしたか?」
「おま、お前まさか、」


奴はにこりと笑顔で最終通告を宣って下さった。


「Ti a mo、愛してますよ沢田綱吉君」


座っていたベンチの後ろに生えていた木から、雀が二、三羽飛び立った。
ねぇ待ってそれはないでしょ。だって今までそれらしい素振りもなかったじゃない。何で今更、そういえばティアーモって前に大人ランボにも言われた気がするけど、え、まさか彼奴もあんなこと思ってたわけ。これからなんて顔して彼奴に会えば良いの。いやそれよりも状況はこいつも同じで、何期待したような顔してんのこいつ。俺はどうすれば、


「綱吉君」
「や、だって、……何」
「大好きです」
「…それは、純粋に俺のこと好きってわけ?」
「はい」
「じゃあ、俺の体乗っ取ってマフィアに喧嘩売るとか、しないって、こと?」
「…………………」


奴はただ笑った。何も言わなかった。俺は勿論、自分の都合の良い方向にその沈黙を取れるほど、楽観屋というわけではない。今までそれやって何回も裏切られた。
なので当然、


「お断り」
「綱吉君」


強制的に遮られた。
奴は俺を後ろから抱きすくめて、ぼそりと呟いた。


「君と僕以外の全て、全部、ぜんぶがこの世からきえてしまえばいいのに」


傲然と言い放ったそれはあまりにも稚拙で幼くて、俺はつい哀れに思ってしまった。哀れに思うこと自体がこいつの誇りを傷つけるというのに。
それと俺の利害計算には関係ないけれど。


「…むく、ろ」
「はい」
「くすぐったいから耳元で話すの、止めてくんない?」
「………」
「……………」
「君ってそういう無粋な人ですよね!」
「いってぇ!」

何故俺が頬を張られなければならないのだ。被害者はこちらだというのに、何でこんな理不尽な羽目に。