事実は真実に非ず。
事実を真実と思う人間は痴れ者である。事実は真実ではなく、真実もまた事実ではない。そんなこともわからない痴れ者は、ともすれば何も考えていないに等しい。
世界は荒廃して退廃している。荒んだ退んだ世界で求められるのは、どう生きるかではなくどう死ぬかである。








地面から足を離すことができないのです。







唖然とした。
いくら浅薄な知識しか持っていない綱吉でも、言っていることがはちゃめちゃで破天候だということくらい理解を許された。
乾いて空気が通らない喉をこじ開け、綱吉は目の前の彼に手を伸ばしかけ、そして止めた。代わりにじっと睨む。彼はそれすら余裕で受け止めているらしく、うっすら笑みを浮かべて小さくクフ、と笑っただけだった。


「、なんで、そんなこと言うんだ」
「なんででしょうね」
「……………」




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彼は綱吉を嫌っている。綱吉だけでなく、綱吉が入れられようとしているところを嫌悪している。そりゃ綱吉だって入りたくない。人を殺す、マフィアのボスなんて。しかし目の前の彼は綱吉がどう思っているかは意に介さないようで(良い気なもんだ)、やたらと綱吉を目の敵にしている。迷惑この上無い。


「君が、手っ取り早く僕にのっとられれば、こんなくだらない会話をしなくて済んだということくらいしか、僕にはわかりません」
「……勝手な」
「そうですね。けれど少なくとも情も移ることはなかった」


喉を鳴らして綱吉は唸った。確かにその通りだったからだ。
それでも、彼のことを勝手だと思う。乗っとりがどうのの問題は、あくまで彼だけの問題であって(いや全然そんなこと無いけれど)、それに綱吉が口を出す理由も権利も無い。趣味の悪いことに、何も言えないから彼は綱吉を責めるように、またはあたかも綱吉が全て悪いというように、じりじり言うのだ。
性格の悪さに綱吉は舌打ちしようとして止めた。


「俺を憎んでるお前が移した情は、どうせ俺には良いもんじゃないだろ?」
「そうですね。ある意味」


ある意味、という含みを入れた言葉を、綱吉はあまり深く考えなかった。綱吉だけでなく、一般人の中にこんな不可解な男を理解できる奇怪な特技を持っている人間がいるとは思えない。気にも止めずに骸を睨み続ける綱吉に、骸は何故か残念そうに眉を寄せた。そんな些細な仕草ですら様になるのだから同じ男として綱吉は情けなくなった。なんで自分の周りはやたらと顔が良い奴が多いんだ。


「僕はあの男に似てます」
「あの男…?」
「あの男です。君の雲の守護者である雲雀恭弥」
「……?」


何故この期に及んで嫌っている男の名前を出すのだこの男は。その上似ているだと?
綱吉は雲雀の顔を思い浮かべた。きりりと切れ上がった猫目に生粋の「和」を彷彿とさせる理不尽暴力大好きなこの並盛町の恐怖そのものだ。良くも悪くも怖いところしか似ていないと思うのだが。
綱吉は当惑した目で彼を見た。柔和な(うさんくさい)笑みを顔全体に張り付けているこの男の、どこが荘厳な雰囲気のあの男と似ているのだろう。笑顔とか、は無い。そもそもあの男の笑顔など想像すら難しい。


「…なんか、僕に対して失礼なことを考えましたね?」
「………いや、そんな馬鹿な」
「否定するというのなら、僕の顔をちゃんと見て言いなさい」


寧ろ両方に失礼なことを考えました。
逸脱し始めた話を元に戻すべく彼は小さく咳払いをした。


「とにかくあの男と似てるんですよ僕は。腹立たしいことにね」
「無理矢理納得しろと」
「黙りなさい」


しかしと綱吉はふと思った。
骸は確かに雲雀と似通ったところも存在している。ほんのちょっとではあるけれど。人を毛嫌するところや暴力大好きで理不尽に腕を振るうところや、やっぱり人間不信な性格や。
ふふ、と骸は目を細め笑った。
でも似ていない。あの男はこんな風に穏やかを装って笑わない。誰にも媚へつらわず孤高で気高くいるあの男と、人に取り入り背中を見せたときに斬りかかろうと虎視眈々としているこの男とでは、やはり根底が違うのだろう。


「骸」
「なんですか」
「お前と雲雀さんの、同じところは俺にも全部わかるか?」
「無理です」


途端、綱吉は何故かがっかりした。理解のし得る事物はやはり無いのか。


「理解したら面白くないじゃないですか」
「…………」


彼はまたクフ、と笑ったが、いまいち綱吉はつっかかることができなかった。
彼の目に沈む黒色が、悲しそうに揺れたような気がするからだ。


「…君が僕らの内面を万が一理解する日が来るとしたら、少なからず僕は半分だけ救われるのでしょうね…」
「……?骸?」
「失礼。雲雀恭弥のことを忘れてました。彼が死ななければ僕は救われる筈もない」
「…よくわからないけど…じゃあ頑張るよ」


骸は嬉しそうに笑って、


その時にまたそう言ってくれると僕は


言葉尻は風に掻き消された。それでも骸は嬉しそうに笑い、あまりに似合わない笑顔だと思った綱吉は不可解そうに首を傾げ、そして彼らの頭上を真雁が。




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「君が好きです」


唖然とした。
いくら浅薄な知識しか持っていない綱吉でも、言っていることがはちゃめちゃで破天候だということくらい理解を許された。
乾いて空気が通らない喉をこじ開け、綱吉は目の前の彼に手を伸ばしかけ、そして止めた。代わりにじっと睨む。彼はそれすら余裕で受け止めているらしく、うっすら笑みを浮かべて小さくクフ、と笑っただけだった。


「、なんで、そんなこと言うんだ」
「なんででしょうね」
「……………」








この、痴れ者が。




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