にがにがにがにが。
くふっ。

ねぇいつまで。




努々
 夢
  の如し




親父のストライキ。聞こえは良いけど(え?良くない?)単なる職務放棄だ。俺は家出した駄目親父なんだ今。ホームから逃げ出したのだ。逃走手段は徒歩だけれど。
何を小規模なと思っているそこの少年少女。その考えを改めるべき。武器使用可の家出なんて徒歩以外で逃走すると真っ先に足がつくんだから。いざとなったら小回りが利かないし。
そんなわけで現在拳銃装備態勢で鬼ごっこ中。複数対一人の不利な状況で唯一救いだったのは、鬼の中にあの最強ヒットマンがいないこと。あれに追い掛けられたら捕まるどころか首が飛ぶ。さようなら俺の首さようなら俺の胴体、は、勘弁して頂きたい。
気配が動き乱れる。あっちに行ったりこっちに行ったり、曖昧な網だったのがどんどん形になっていく。気配がはっきりする代わり、俺の逃げ場は限定されていく。
チクショウ、リボーンの奴め、俺の家出対策に、俺が行きそうな場所とか逃げる癖とかを教えてやがる。

「ならば一緒に逃げますか?」
「ぎゃあ!」

幾等存在がわかっていたからと言って、耳の裏に息を吹き掛けられたら気持ちの良いものではない。ぞわりと一際感じた悪寒に俺はだぼだぼの服の上から肩を撫で摩った。奴は俺の反応が気に食わなかったのか、片眉を器用に上げて俺を見下ろした。

「あなたって本当、失礼ですよね。何してるんですか」

歩く怪奇現象に言われたく無い。六道輪廻とかわけのわからない人生そのものの脇道を迷っている癖に。なんだ偉そうなパイナップルめ。てかなんでここに居るの。

「ええ。あなたが寄越して下さった仕事の猶予期間まだ残り三週間ですけど、あなた、少し僕のことを見くびってませんか?あんな仕事は二ヶ月もかかりませんよ。御粗末な」

すみませんね、どうせなら猶予期間ギリギリまであっちに居て欲しかったんですけどね、なんでそんな仕事熱心なのかなー。マフィア嫌いの癖に。寧ろ世の中のマフィアが全滅すればどんなにすっきりするだろうとか思っている癖に。

「で、あなたは僕が仕事を終わらせて帰って来たら悠長に鬼ごっこですか。良い身分ですね、僕はこんなに仕事頑張ってきたというのに」

頑張ってきたというのに。
ねちねちと姑のように口を開く多年草パイナップルに、では俺はどうしろと。

「大体そのだらしない恰好は何ですか。あなた良い歳してるのに、まるで中学の頃のあなたを見てるみたいで腹立つんですけど」

Tシャツにジーンズのマフィアのボスが、一体どこにいるんですかと嘆かわしげに頭を振るが、御生憎様、目の前にいるだろう。俺は装填された拳銃を背後の物干し紐に向けて撃った。だらりと垂れ下がった洗濯物(ごめんなさい!)に阻まれた部下の隙を衝いて俺は済し崩しに骸の手を取り逃げ出した。自分の部下を殺してしまったらリボーンに殺されてしまうことくらいわかってるし、普段命を懸けて働いてくれている彼らにそんな暴挙は出れない。

「なんであなたは逃げたんですか?」
「だって仕事の割りが合わないんだもん。雲雀さんが来週末に休み取れて、馬車馬のように働いてる俺は無休暇?!」
「はぁ…まあ間借り成りにもボスですし」

後ろの足音が増える。くねくね曲がるややこしい裏道を次々に通る。
後ろで奴がクフフと愉しそうに笑った。

「なんかこれって愛の逃避行みたいですね」

誰かこの蛆が湧いて頭がおかしくなった人を島流しにして下さい!







2006.9.27.