一時ルークがコーラル城へさらわれたり、コーラル城で拾ったディスクを取り返しにディストがカイザー・ディスト何号機だかで奇襲をしてきたり、ディスクを解析したジェイドがことあるごとにどこか余所余所しげで物言いたげな視線を投げかけてくるようになったり、キャツベルトの甲板の上で超振動なるものが暴発したり、剣の師がキムラスカの不信を煽るようなことを言ったり、シンクが来たりと、あまり平穏とは言い難いながらも、初めて外の世界に触れる機会であった長い旅路はようやっと終わりを迎え、ルークはかつて一度も見たことのなかったバチカルの景観を見下ろしながら、色濃い疲労のため息を吐いた。
隣で守護役の声が楽しげに響き、ティアの、取り澄ましつつも外の絶景に見惚れる横顔を、中途半端な和解に発展させたらしい剣の師がほほえましげに見、ガイはあれやこれやと記憶を失くしてから一度も外へ出たことのないルークのために説明を入れている。それをぼんやり見聞しながら、外へ出るなときつく言い渡した父や心配でもとから強くない体に更に心労を募らせているだろう母や、何だかんだ言いながら待つことに甘んじて気が急いているに違いない気丈な王女を思い浮かべ、疲れ目を休ませるために目を閉じた。
「ルークッ!」
やっぱり。
首に少しの圧迫感を感じ、鼻をくすぐるふわふわした金髪を視界に収め、ルークはげんなりした。何が嫌って、おやおや若い人はと面白がっている某眼鏡やなれたように苦笑している親友、玉の輿を狙っていたからか、面白くないと全身で体現する守護約の横で楽しそうに笑っている導師の全員が生温い視線を、熱烈な歓迎を体いっぱいでする王女と、なし崩しに抱擁を受けるルークに向けていることが。
「ルーク、ルーク、よくご無事に戻られました…!」
「あ、あ…すまなかったな」
体を放した王女は花が綻ぶように笑って安堵の吐息を吐いた。
「怪我もないみたいですし、私安心しましたわ」
ルークは苦々しい顔をした。無傷なのは、ひとえに治癒術士が回復を担ってくれたからだが、それにしたって時期国王を最前衛にするのを黙認していた同行者の気が知れない。
しかし今更過ぎたことを口出しして和平に水を差すような真似はしたくない。何より音を上げているようにも思えて、ルークは口を噤んだ。
「さ、ルーク。叔母様にもあなたの無事な姿を見せて差し上げて。叔母様、ルークがいなくなってからまた臥せってしまって…」
「母上が?」
「遣いがあなたの帰還を知らせに走ったのでしょうけれど…きっと叔母様もルークの姿を見れば、すぐに元気になると思いますわ」
「そうか…すまないナタリア」
「全くですわ。私たちがどれほど心配したか、後で嫌というほど聞かせて差し上げますから」
そう笑うナタリアはルークの背中を軽く押した。ガイに言われてティアもそれに続く。
肩越しに窺えば、ナタリアとジェイドは少し話し込んでいるようだった。きっと彼らとはもう顔を合わせることはないだろう。
少しの間だが、背中を預けて戦った間柄だった彼らに、どう接すれば良かったのか未だ考えあぐねていたルークは、そっと背を向けた。
ルークの思惑も大きく外れ、実質彼らと再び会うことになるのはそれから程なくしてのことである。
(081214)
(100408)掲載