とかげとやもりやいもりは、一見すれば区別はまるでつかない。とかげと一括りにしてはいるが、当然のことながらとかげ、の前に何かしらわけのわからない付属が付くものの方が遥かに多い。有り体に言ってしまえば単体でとかげと呼ばれるものは絶無に違いないのだ、と思う。○○とかげ、××とかげ、よくもバリエーションをそこまで増やせるものだ。見掛ける場所はたいてい湿気の多い、じめっとしたところのような気がする。何となく、あれらの蛇に似た頭と頼りない体を支えるには心もとない手足とひょろひょろ長い尾っぽの生き物は、押し並べて薄暗いところに生きているというイメージ、いや偏見か、とにかく、日の当たらない涼しくも暗くさもしい場所でしか生きられないと思っていたのだ。だから、最寄りの駅へ徒歩で移動中だったわたしの目に飛込んでくる形で、疾うに死んでいたと思われる様相を呈する干からびたとかげが生っちろい腹を見せて仰向けに転がっているのには、少なからず目を止めまじまじと見るくらいの物珍しさがあった。
普通のとかげである。○○とかげ、の○○の部分にどんな奇天烈な言葉が入るかは一目では判断できず、それはよくよく見たって同じことなのだけれど、例え既に動かぬ有機物と化したものであったとしても、こんな寂れても町中、腐っても町中な場所でお目にかかることができる代物とは思えなかった。
わたしは特に目的も持たず家を出てきたので、格好に無頓着な日頃の服装を輪にかけた適当な服で吹き荒む寒風の中、とかげと対峙していた。黒のコートの下は、実は部屋着のスウェットである。まだ硬いジーンズ、履き潰したローファーに素足のまま足先を入れた今の状態は、とかげからすれば中途半端な季節感丸出しの見苦しいくるぶしが丸見えなわけで。既に死んでいるとかげにわたしを見る目玉の機能がまだ残っているなんて倫理感を持ち合わせていないわたしはそれに特別注視することはなく、相変わらず乾燥して最早痛みとしか感じられない冷たい風に晒されているわけで。
さてどこに行こうか。
わたしはとかげの体を視界の端に納めながら沈思した。道の端、ちょっと雑草に隠れている剥製にしたいほど綺麗な姿のとかげはこれ以上身の内をぶちまけることなくこのまま風化してゆくのだろう。そう思い、何故か安堵した。
とにもかくにもせっかく駅近くまで足を使ったのだから、その苦労を徒労に換えたくない一心でわたしは休みに湧き、ごったがえす駅構内へ踵を反した。人混みも香水の渦も嫌いなわたしがわざわざこんな込み合う駅へ出向くこともそうない。一体何に駆り立てられたか知らないが、近所をふらつく程度が関の山の平素よりは健康的なのだろう、足を少し伸ばして遠出をすることは。
わたしは電車に乗るのなら、座るよりも立っている方が楽に感じる。もちろん半分も座席が空いている場合は、可も不可もなく座るけれど、椅子取りゲームのように空いた席を我先にと奪った割りには四方八方人に囲まれていちゃ息が詰まるようで落ち着かないのだ。
両手に荷物を抱えた初老の男が秤のように左右へゆらゆらしてエスカレーターを占拠するその様に苛立ち、押し合いへしあい定期やらカードやら切符を改札に押し込む人混みに流されるようにして出口に向かう。競争をするつもりでも何でもないわたしは周りの歩く速さがまるで流星群のようにも見え、登校拒否中のわたしと、齷齪働く彼らとが感じる時間の流れの差異は、恐らく地球の一周分くらいに相当するに違いない。
流れるようにこもごもとする情報に耐えられなくて、わたしは目を瞑った。目を開けた瞬間に眼前から全てのものが消え去れば良いのに。このまま視力も聴力も触覚も失ってしまえたら良いのに。
迷惑そうにわたしを避けて通る人、人、人、の気配が。わたしは諦めて目を開け、出口へと続く階段に足をかけた。
○3月8日
今日は近所を歩くのを止めて少し遠出をしてみました!いやぁ、電車に乗ったのなんて何ヵ月振り?数ヵ月振り?(笑)
途中でとかげが落ちてるのを見たんだけど、こう、ぽてっていう感じでね、仰向けになっててね、お腹だと思うんだけど凄く白くてさぁ、模型みたいな感じだった。多分死んでたんだと思うけど、あれがまた動き出したら楽しいなぁ。あ、寧ろ不気味?(>_<)
ゾンビみたいな。自分死んでるって自覚ないとか。((゜д゜;))
本物のとかげ(まあ死体なんだけど)がうちの近くで見れるなんてちょっと意外だったなぁー。我が地元の新しい面(笑)を発見!
海南子
コートに無理矢理突っ込んだ財布を取り出すのに四苦八苦しながら、少ない中身をゆっくり擦り減らすかのような慎重さで使う。新しい服が欲しいと思ったら、グラム単位の中古屋で吟味して、欲しい本があれば図書館に出回るのをじっと待つ。私物のそれらは我が荘厳な父親に全部自費を強いられるので、そうでもしなければ、自省でもしなければ微々たる小遣いなど湯水のようにあっと叫ぶ前に姿を変えてしまうのだ。
○3月8日(その二)
カットソーとカーゴパンツを買いました!二着で千円強!あたしの節約技も身についてきたなぁ、なんてしみじみ実感( ̄∀ ̄)
あ、そうそう、帰ってきたらあのとかげがいなくなっててさ、本当に動き出したのかな、かな?とかげも蛇みたいに冬眠するのかなー。だとしてもあんな道端で寝るなんて悠長もいいところっすよ!(`∇´ゞ
今日の出来事は以上です!それではみなさんおやすみなさ〜いV(^-^)V
海南子
「お兄ちゃん!勝手にわたしの名前でブログなんて書かないでよ!」