*三→幸(無双)*


石田三成は、ともすれば周りに対して冷酷な言葉を吐く、とても意思疎通に精通しているとは思えない堅物であった。しかしその身の内は、思いを言葉に表せない不器用で哀れな人間なのだと幸村は知っていた。
だから、彼と、彼の部下である左近との会話をうっかり聞いてしまったとき、その内容について幸村が三成を責める筋合いはない。


「お前は幸村が武田に従属していた時分、長篠で何があったか知っているだろう!」


苛々と、三成が扇子を閉じる軽い音が響いた。
彼は優しい。幸村は角で立ち尽くしながら目を閉じた。
長篠で、思いがけず命を捨て損ね、死に場所を喪ってからの幸村は、自分でさえも病んでいると理解していた。合戦があれば誰もが渋るような危地への任を進んで受け、常に先鋒方を努めている。できるなら長篠の再現を、それでなくても華々しく散っていけるような死に場所を求めているのだ。
長篠の惨状を知っている左近に当時の様子を聞く三成は、死にたがっている幸村を怪訝に思う彼の実に理に適った行動である。激情家で人に頭を下げることを知らない彼にしては、あれほど苛立っていても、それでも珍しい。


(…ねね様が私に言うはずだ)


三成のこと、あの子のこと、宜しく頼むよ幸ちゃん。
頼まれるまでもない。長篠の死地へ出向く前、世話になった上杉の軍師の直江とも再会を果たせた。再び命を預けるのならば、彼らにしようと決めたのだ。
頼まれた事実を些か間違った方へ理解してしまった幸村は、けれどその過ちに気付かない。


「…いけませんね殿」
「何故だ左近!」
「先鋒から幸村を外したじゃないですか」
「外して何が悪い。むざむざあれを死なせたくはない!お前は違うというのかっ!」
「奴にしてみれば、余計な世話も良いところだからですよ」
「…………、」
「知ってるでしょう。幸村は長篠で死ぬところを有無もなく生き延びた。しかも己の意思と関係なく」
「それがどうした。俺は亡き信玄公に仕えていた頃の幸村が、今と同じ悲壮を漂わせていたかを聞いているのだ!」


そこまで重い空気を背負っていたのかと自覚していなかった幸村は目を細め、また閉じる。恐らく無表情なのだろう、今この胸に脈々と流れる血のような感情を、顔に出して表せないと知っているからだ。


「勿論違いましたよ。でもそれの仔細を殿に言ってどうすんです?その頃のあれに戻そうなどと、笑わせることを言わないで下さいよ」
「笑わせる?侮蔑するというのか…っ」
「勘違いしないで下さい、殿。あなたは、命を捨ててまで守ろうとした者に先立たれる絶望を、知らない」


三成が息を呑んだのがわかった。恐らく、ここまで頑なに拒絶の意を示した左近の声など初めて知ったのだろう。
ただでさえ盲目的な三成はまだ若い。左近も、その『命を捨ててまで守ろうとした者に先立たれる絶望』とやらを経験したことがないに違いないが、しかし彼は三成よりも多くのことを知っている。先に生まれた者のそれなりの特権だ。
尚も食い下がる三成の激昂に紛れて、今までいなかった声が降ってきた。


「修羅場だな」
「兼続殿」


いつもの半笑いを口に乗せ、けれど熱弁放つ三成に気取られないような忍び足で幸村の隣を陣取る。


「子供の癇癪か、あれは」
「焚き付けておいて何を申されるのですか」
「人聞きの悪い。知りたがっていた知識を知る機会を与えただけだ」
「分別が利かなければ知識など持ち腐れた宝と同じでしょうに」
「道理だ」


辛辣な指摘を受けたにも関わらず、兼続はくすくすと笑う。そこには罪悪感のそれが一切ない。面白がっているのとも違う。不可解さに幸村は僅かに眉を潜めた。


「島は大丈夫だろう。多方面から物の見ることができないあの三成に、無闇に重過ぎる荷を与えまい」
「…それがわかっているのなら、何故三成殿を左近殿へけしかけるような真似を」
「三成は飽くまで戦を指揮するだけだ。椅子に座って、時折戦うだけで戦を理解した気になっている老獪な狐に戦の何たるかを知って欲しいだけだ」


今後も我々と、共に戦って生きるために。
兼続はこう言った。知ったか振りをと胸中で小さく揚げ足を取り、幸村はまだ話している二人に目を向けた。
風が冷え込んできた。




***

ひどい話。思った以上に長くなった。
ていうか幸村誓いを立てた相手に食ってかかってどうする。
未だにキャラの名前が混乱するときがあります(キャラがわからない以上の痛手
(07.08.08)










































*カヲ→シン(Evangerion)*
しとど濡れる、


言うなれば彼は、過度なまでに臆病でとても弱く、そしてひどく利己的だった。
人との触れ合いを極度に避け、その癖構われることを喜ぶ、矛盾を抱えることを枷とされた人間を善くも悪くも体現したかのような、愚かな子供である。少し名前を知られているからといって戸惑いと僅かな優越と羞恥を赤みの広がった顔に浮かべる、変なところで器用と言えばそれまでの子供である。まあ、彼が内向的かつ人の顔色をあからさまに窺うような苛立つ人種となってしまった原因の一端は、彼を、延いては自分を傷つけることを恐れた彼の父親が、既に母を亡くし、まだ両の足で立つことも侭ならない幼児であった彼の育児を投げ棄てたことによる。
さぞや彼は泣いただろう。落涙に暮れる子供を一顧だにせず、去りゆく父親の背中が遠ざかる様にさぞや彼は絶望しただろう。そして彼は卑屈になった。




LCLの海を漂う。形もなく、魂といった概念もなく、記憶すら曖昧な羊水を漂う。視覚もなく、聴覚もなく、触覚もない、ただ意思なき草のように水面を、ゆるりと泳ぐ。
緩慢だ。しかしそれに退屈を感じたり思考する脳を僕はもうなくしてしまった。
外内隔てず貧弱な彼を憎からず想っていたあの頃も、甲斐なくこの無限に広がる生命の源に落としていった。ここで一度でも彼が(更に視野を広げればファーストもそこにいたのだけれど、僕は意識的に除外した。彼が彼女と一瞬でも繋がっていたなどと思い出したくもない。いや、だから、脳はないけど、)、たゆたっていたことに少なからずどうして良いのか戸惑う。それと死ぬ前に見た彼の泣きそうな顔(ただの錯覚かもしれない。寧ろ見える方がおかしい。彼は初号機に乗っていた)とファーストの無感動な顔を見たことだけ、それが僕の全部だ。


ぼちゃん!


彼に千切られた僕の首がLCLに落ちて、それから彼らの世界がどうなったのか、正確に詳しくは知らない。知る術も興味もない。
ただ、もう彼と話し、笑い、沸き上がる気持ちの一片を分かち合うことができないことに、一抹の寂しさを感じるだけで。




***


24話とかOVA後の自己補完。スパシン逆行ものとか書いてみたい。
(07.10.15.)










































*祁塔院ひろゆきと鏡佐奈。(佐藤氏の鏡家サーガ。)*


「あれ、なんで血ダルマさんがこんなところにいるんですか?」


君は人の名前もろくろく言えないのかと呆れかえりそうになり、自分がまだ名乗り上げていないことを思い出し、口を出掛けた揚げ足を自重する。尤も、祁塔院なんてそうそうない、裏財閥の名前を彼女に教えたところで何にもならないではないか。デレッデ!


「鏡さんだっけか。君こそ何でこんなところにいるんだい?君は確か、」
「兵藤くんは無事でしたか?」


知るもんか。
話を遮られて不機嫌気味に少女を見る。
平均以上の顔立ちをした少女は、その白い顔を薄闇の背景からぽいと放り出されたかのように浮かせている。かといって浩之も自分の顔の造詣がどれほど優れているのか知っているし、人形のような姉の、表情筋など死滅してしまったにも関わらず優秀な顔を見ているので、失礼ながら少女の顔には何の感慨も浮かばない。ただ、死地を共にしたというかつての記憶以外。
周りを見る。
何もない。これはおかしいと浩之は思った。しかし目の前の少女はそれに何の不思議も抱かないといった風情で真っ直ぐ浩之を見ている。虫のような目だった。
幽鬼の顔とは、まさにこういう顔のことを指すのだろうか。浩之は白すぎる少女の顔を見つめた。


「ところで君はここがどこだか知ってるかい?僕は早く姉さんの起床用のチョコレイトをあげたいんだけど」
「あの人は起きるのにチョコを食べないといけないんですか!?」


妙子と同じ反応だった。あまりの生々しさに吐き気がする。そして、質問を蔑ろにされた腹立たしさも。


「この際姉さんのことは保留にしてくれないか。君はここがどこだか知ってるのかと、僕は再三君に訊きたいところだけど、君は真面目に僕の話を訊いてくれるのかな。僕のおどけた喋り方を、妙子ちゃんは僕がモテない原因のひとつだって注意を喚起してくれたけれど生憎僕はこの喋りで生きてきたんだ。十七年間ずっとね。ところで本当に何もないところだね。真の虚無ってやつを僕は今自分の身で体験してるのかな?おっと、体験の示唆する人物はいつも自分だったね、こりゃ失念」
「…あなたが話題を提供するつもりなのか逸らすつもりなのかわかりませんけど、私こそなんであなたがこんなところにいるのか訊きたいんですが」
「だから知らないうちにいたから訊きたいんだよ」
「でもでも、私もここにきたときから一人でしたから、ここがどこかなんて知りませんって」


なんとも素敵な現状に辿り着いたものだ。浩之は溜め息を吐いた。


「君は、鏡佐奈で間違いないんだね?」
「ええ」
「君の記憶は、あの学校の件を覚えてるかな?」
「はい」
「ならここは地獄かどこかだね。君はあのとき死んでるんだから」
「死んだあとに感知できる世界があるのだとすれば、ですが」


鏡佐奈は笑った。溺死した彼女は、水を吸って真白になった顔で。吐き気がする。


「じゃあ消えてくれ。僕は女の子には優しくするけど、生きたものにしか当て嵌まらないんだ」


ふふ、と少女は笑う。鏡佐奈は笑う。


「あなたもいつか、ここにきますよ」


望むところじゃないか。
祁塔院浩之は邪悪に笑った。




***


浩之の性格が偽者。本物はもっと人をたばかった性格なのに。
(07.09.22.)










































*花房と安吾(ZONE-00)*


自分の吐息のあまりの煩わしさに、網にかかった魚のように全身の筋肉を強張らせて跳ね起きた。肩を揺らして呼気を吐く度、ざらざらというノイズが走る。
手首にかかる赤茶けた傷。ところどころに黒ずんだ血の結晶が浮かんでいる。


『てめぇそれで同情でも誘ってるわけ?志萬家の当主ともあろう者が、なっさけねぇ』


違う。そんなつもりはない。
ただ脈々と生温い肌の下を流れるこの血が、
もしも自分が普通の人間だったならば、


『わぁそれ痛そう!慰めてやるよ志萬!』


違う。違う。哀れみが欲しかったわけじゃない。
ただ脈々と生温い肌の下を流れるこの血が、


『志萬くんはさァ、僕らにお涙頂戴の戯作でも聞かせたいの?ならお門違いも良いところだよ』


違う。違う、違う。同情心が欲しかったわけじゃないのに。
この血が、この血が悪いのに。


『のう童。ならば死ぬ前に三途の川でも泳いでみぬか?』


お 前 は 誰 だ !
恥も外聞も問わず叫びそうになった。慌てて指を口に突っ込み、虚しい慟哭をやり過ごす。


「大丈夫ですか?」
「はな、ぶさ…」
「お気を付けて下さいませ。人間は、よっぽど我々よりも弱いのですから」
「そないなもん、疾うに百も承知や…」


理性では。
花房はにこ、と笑って、それは重畳と応えた。
嗚呼夜はまだ長い。ざらざらノイズが走る。




***


序章的なもの。
(07.11.27.)










































*刹那とロックオンとアレルヤ。若干一名ほど欠員(だぶるおー)*


<−−−刹那−−−>




刹那・F・セイエイという仮の名前が与えられる前、そう、もう何年も前の話だ。
聖戦と言われ続け、信じ込んで機械に乗った人間相手に生身の体で対抗しようとしていた愚かな時分のこと。きっと確かな記憶を持っている仲間(というより、同じ仕事をした目的以外同一ではない希薄な相関で成り立った人間)は、ごく僅かしか残っていないに違いない。
クルジスという場所に生まれたのが悪かったのか、単に運がなかっただけなのか、知らないし興味もない。けれど、ある程度操縦を理解できる子供ならば誰でも扱えるようなライフル片手に戦場を無様に走り回ってろくに衣食住も保証されなかったあの頃のことを思い出すと、正直気分が悪くなる。硝煙、血潮、鼻につく臭気、戦場を感じさせる何もかもが。その限りでない唯一は、あのときに見た、羽根のように光を広げたあの機体。自分が乗っているのと同じ機体だけ。
エクシアを駆って世間体から見ればテロのようなことを行なう以前から、何年も前から見慣れている人間の死体。だらしなく力の抜けた死体は触ってみればとても冷たく、かたく、食えたもんじゃない上に放っておくと蛆が沸き蝿がたかる。焼殺された死体はとくに鼻に悪く、いや、この際死体は目にも鼻にも悪いだろう。それを見慣れている自分の頭も疾うに螺旋の1、2本抜け落ちていかれていることくらい、知っている。だからスーツを着て、機体に乗って、臭気や人間の生焼けになる、料理とは違う臭いと遮断されれば、より冷徹になれた。相手は武器を保有する軍人が主で、平和になるであろうこの先の未来には必要ない。そしてこの先の未来に、戦争に関わった自分はいらない。
同じく機体を駆る人間の一人がそれを聞いて、「お前、その若さでそんな暗いことしか考えてないと、女の子にもてないぞ」と呆れた顔で言った。不謹慎だと鋭く咎めた別の人間に、普段は反りが合わないけれども、珍しく同調した。
ロックオン・ストラトス、ティエリア・アーデ、アレルヤ・ハプティズム。同じ組織の思想の下で、数少ないガンダムの機体を駆る人間。前者一人は最年長だからかうるさいほどこちらや周りを気にかけ、後者二人は何を考えているのかよくわからない。ただの他人だと思った。馴れ合いはいらないと、思った、のに。


「刹那」


仮初の名前。呼ばれることのなくなった本名と違って頻繁に呼ばれるようになった、名前。刹那・F・セイエイ。ただの識別記号。
羊水に浸るように生暖かな気分になる、それ。


「刹那」


あまり、呼んでほしくなかった。




<−−−ロックオン−−−>




名前を捨て、戦争の根絶を掲げる組織に入って、初めてそのMSを見た。壮観であった。
同じくMSに乗るのだという人間の三人と顔を合わせて、一人一人、印象なんかを訥々と考えた。怜悧そうだが随分と面栄えのする顔できれいなのに勿体ないとか、温和そうな柔和そうな顔立ちだなー付き合い易そうだなーその前髪は邪魔じゃないのか?とか、考えて、視線ががくんと下がった。捉えた先の、痛んでぱさついている黒い髪の人間を見て、少し驚いた。MSを操縦するのには手さえ操縦桿に届けばいいとわかってはいたのに、そこに年端もいかない子供が存在することに、ひどくショックを受けた。
その子供は他の二人に順々と目を向けていたが、自分と目が合うとふいと何もない場所に視線を投げかけた。笑いもしない、ましてや誰かに縋ったり頼ったりする気配もなくしゃんと背筋を伸ばして立っている子供を見て次に浮かんだのは、悲しみだった。ここが何をする場所なのか、口頭の説明だけでも正確に、無慈悲なまでに正確にその意味も真意も汲み取ったのだろう。それを理解できるのは、過去に日常で嫌というほど戦争に関わってきたからなのだ。可哀想に、親もいないようだ。
つい、子供の手を取った。
左手と中指から小指にかけての三本の指の間接が、その年にしてはおかしいほど骨ばっている。掌が分厚い。人差し指の筋肉だけが立派だ。銃を、握ったことのある、手。その重みを知った、手。何度も何度も引き金を引いたこともある、手、だった。それがむしょうに悲しかった。
子供はいきなり手を掴んだ人間がいることに驚いているのか、目を瞠っていたが、どこを丹念に見られているのか気づいたのか、音が鳴るほど手を振り払って、声をあげた。


「俺に触るな!」


刺さるような下声。煩わしげにぐっと寄せられた眉毛。掴まれた方の手は、背中へ隠してしまっている。
騒いだ声に他の二人がこちらへ目を向ける。肩を竦めておどけてみせた。


「やれやれ、嫌われたもんだな。子供は子供らしく、お兄さんに守られてろよ」
「うるさい」


頭を撫でようとした手は避けられ、一歩、二歩と距離を置かれる。目だけが油断なく部屋をぐるぐる見回し、壁際までにじり下がると今度は入り口に視線を固定した。無理やり連れ込んだ野良猫のようである。
再三肩を竦めると、好印象のやけに筋肉質な少年、アレルヤ・ハプティズムが小さく苦笑いをこぼした。他はともかくこの人間とは比較的仲良くやっていけるかもしれない。


「よろしく。俺はロックオン・ストラトス…ってさっき言ったな、これ」
「僕はアレルヤ・ハプティズム。よろしくお願いします。さっきも言ったけど、別にいいじゃないですか」


とりあえず、職場でノイローゼ、なんて羽目にはならなさそうだ。




<−−−アレルヤ−−−>




オレンジ色の機体、キュリオスが自分の乗る機体。これから人を殺すために動かす機体。それがいろんな人たちにメンテナンスを施されるのをしばらく見てから、あてがわれた部屋へ戻ろうとすると、最年長最年少の二人と擦れ違った。


「どうか、したの」
「いんや、刹那がエクシアをみにいくって言い出してなぁ。俺もついてく途中。な、刹那」


声をかけられた、平均よりも低い身長の少年が忌々しげに振り返る。今、彼が話を振らなかったならばそのまま通りすがってしまうのだろう。早々にこの気難しい子供のペースを掴んだ彼は、もしかしたら保父なんかが天職じゃないだろうか。そう思うと、彼、ロックオンがここにいることがとても皮肉に思えた。それはこの子供にも言えることだけれど。
砂ぼこりがよく絡みつきそうな、奔放に跳ねた髪。黄色人種系統が少しまじっているのか、少し悪い色の浅い顔。こごった暖色の目。けれど、その痩躯がどうしても気にかかる。自分が彼ほどの年齢であった頃(あまり思い出したい記憶ではないけれど)は、もう少し身長があった。ならば、長い間ろくでもない食生活を送っていたのだろう、彼は。矮躯にも常日頃からよくない顔色も、食に関心のないその有様も、それ一言で説明が尽きてしまう。自分もろくにまともな生活を与えられてなんていやしないのだけれど、そんな人間は少ない方がいいに決まっている。胸が痛んだ。


「用がないなら、もう行くが」


何も含まれていない感情。随分と昔に感情を置き忘れたみたいな声音だが、それは他人が彼に触るたびに消える。当り散らすようなきつい声でただ さ わ る な ! と拒絶するだけだが、激昂する彼は他の表情より何より人間味のあふれる顔をしている。ロックオンも取り付く島のない彼が機械のように温かみのないというわけじゃないことを知っているからこそ、ああして構っているのだろう。嫌がり、難色を示す彼が好きにしろと折れるまで。その様子が如実に想像容易く、思わず小さく笑った。
彼がいなかったら、刹那やティエリアとはまだ気まずくぎくしゃくした関係のままで、声をかけることすら躊躇ってしまうかもしれない。


「なーに笑ってんだよアレルヤ。思い出し笑いをする男はいやらしいんだってな。知ってたか?」
「じゃあ、ロックオンもいやらしいんですね」
「俺がいつ思い出し笑いなんてしたんだよ」
「それはもう、随所で」
「…付き合ってられない」


刹那は床を蹴った。


「あ、ねえ」


それでも、声をかければ止まってくれるのだ。


「僕も一緒に行っていい?」


ロックオンは嬉しそうに笑う。その笑みを見た刹那は眉を顰めて、いつもの無表情に戻った。
しつこく言い募れば彼は答えてくれるだろう。
好きにしろ、と。




***


ティエリアは…うん。書けません。書けませんでした。
あいつよくわかんねぇんだよ、ぺっ!(こら
みんなせっちゃんを気にかけてるんだよ、ていう話のはずが、時間軸が謎に。
あれ、本編?過去?
(08.03.30.)