APH/Japan
私、童顔らしいようで、周りからもずいぶんと幼く見られがちですが、僭越ながら長寿大国と評されるほどには年を取っております。まあ、私という異種なる者を知っているのはほんのごく僅かでしょう。先見の明と申しますか、長寿に見合った人生経験だけは豊富ですので、あなたの抱えるお悩みに耳を傾け、おこがましくも言葉を差し出すくらいはできますよ。ただ、それを助言として活かせるかはあなた次第です。
今までたくさんの人の生き死にを見てきました。神託を告げる巫、気性の荒くれた支配者、弾圧される異教徒の信者たち、外へ出てゆく人、人であることを否定された方々…様々です。時折海外から来る方も交え、たくさんの。
私自身の人生など、語るに及ばずです。人の何倍も生きて、それでも子供のように無邪気でいる人だっているでしょう。ほら、アメリカくんとか。
…そうですねぇ、私にも兄と呼べる存在がいました。右も左もわからないほど幼かった私を見て、弟ができたと大変喜んでいましたよ。当時からあまり喜怒哀楽を顔で表すなんてしなかったのですけれども、向こうがぽっと出の私を悪く言わないどころか喜んで受け入れてくれたことには、今も感謝しています。…調子に乗るから口には出しませんがね。
……そんな優しい彼に対して、私は手非道い裏切りをしてしまったと思います。でも、後悔はしていないんですよ、私。申し訳無さは身に染みるくらい、罪悪感は腕を掻き毟るくらいに感じましたが、後悔しているかと聞かれれば私は断固として否と応えましょう、胸を張って。
…わかりませんか。いずれわかる時も来るでしょう。
…え?…そうですね、長くなるでしょうから、お茶の席でも設けて続きを話しましょう。
さて、
何から話せばいいですか
WJ Silver Soul/沖新
とても、とても久しぶりに仕事を放り出して、沖田は彼の家に遊びに行った。
季節は雨季。この頃ならば快晴の日は夏日と言われるまで湿度と気温があがり、むしむし暑苦しく感じることこの上ないが、今日は朝からそぼ降る雨のおかげで、肌を舐める風も足元を掬う空気も腹の底が震えるような冷たさであった。
相手にももちろん仕事があるが、なんとなく今日は、自宅にいるんじゃないかと思った。というより、自宅以外のどこかにいるなんて考えつかなかっただけなのだけれど。
果たして目当ての彼は縁側に寄りかかって呆っとしていた。ややもすれば障子にもたれて眠っているようにも見えたが、残念ながら沖田の目はうっすら開いている新八の目を見逃すほど悪くはなかった。音を立てずにそおっと忍び寄り、声をかける。
「よォ、何やってんだィ?」
「あ、沖田さん。こんにちは」
にこ、と笑いかけられ、しばし固まる。
職業柄、どちらかと言われれば嫌煙されがちであるのが常だが、万事屋として対面して、その理不尽ぶりを目の当たりにしたからだろうか、彼は気さくに話に応じてくれた。別に応じてくれなくても全く構わなかったけれど。
それからは何とはなしに、一言二言言葉を交わすようになり、惰性で知り合い以上、茶飲み友達未満と曖昧極まりない相関が成り立っている。
雨がぱたぱた降り落ち、時折車か飛行船かが過ぎてゆく縷々とした音が聞こえてくる。沖田は新八の隣に腰を下ろした。小指の先が重なったが、気にならなかったし相手も振り払わなかったので、そのまま緩やかに体重をかける。
「いたたた、痛いですって沖田さん」
「なぁにがでィ?」
「指、小指がですよ」
「おおっと悪ぃ。気付かなかったィ」
最後に思いきり体重をかけて(悲鳴があがる。「いってぇ!」)、沖田は冷たい縁側から掌を放した。
雨垂れが足元に降り注いで、足先がどんどん冷たくなってゆく。徐々に冷たさが頭の方へ迫ってくるのに、何故か小指だけがいつまでも暖かかった。
キミの手が温かい理由
SOS 長→キョン
「俺なんかのために、お前が無理する必要なんてないさ」
その言葉に私は首を傾げた。
無理をしているつもりはない。
例え肉体に何らかの損傷を負ったとしても、この有機体に連結している情報を一時解除、再構築すれば、また無傷の状態まで回復できる。情報の主となる情報統合思念体が消滅しなければそのサイクルは崩れることはないが、情報統合思念体の消滅は実質有り得ないことだ。涼宮ハルヒがその存在を知り、消滅を願わない限りは。
「そうだとしても、お前が怪我したら血が出るだろ?痛くないのか?」
「ない。痛覚神経とはリンクを切っている。私の核たらしめるものはこの肉体に存在しない。主要器官の自己回復は可能」
そう言うと、彼はおかしな顔をした。
眉根を寄せて、口を引き結んで、眼球粘膜の潤度があがった。手は握り締められ、爪が掌の表皮に食い込んで、彼が体全体で表したい感情は、
…わからない。
「お前が怪我してまで俺を守るなんてことはしなくていいんだって」
「それはできない」
あなたは、私の
…わたしの?
否、彼は涼宮ハルヒの鍵たる人物。涼宮ハルヒの情報フレアを観測するのに必要な人。涼宮ハルヒは自ら情報を生み出す、我々にない力を有している。涼宮ハルヒは何の特性もない彼に一喜一憂をし、その都度情報を生み出している。彼は、我々に必要な人。我々に…私に。
「あなたは私が守る」
「あのなぁ、俺を守るより自分を大事にしてくれよ。俺はちょっとくらい構いやしないから」
「体の脆さに関しては私よりあなたの方が上。あなたは普通の有機生命体。刺されても撥ねられても死んでしまう。それは私の望むことではない」
「情報統合思念体の、でなくて、か?」
「私の」
彼は渋い顔のまま目元を綻ばせた。それは俗に言う泣き顔と酷似しているのだが、彼のその表情を見ていると、何故だか私は安心できた。
また、バグだろうか?
貴方が笑えと言うのなら
Oth 00/アレ刹
別に、嘘は言っていない。
彼はよくそう言った。頑なに唇を引き締め、目線を下に固定して、眉を寄せ、間違ってないと強情を張る子供のように。
事実、彼は嘘を吐いてなどいない。ある意味彼の言っていることは、真実嘘ひとつない真白なものだったに違いない。しかし、本当のことすら口にしないのなら虚構も実も存在しない。
「ねぇ、その肩本当に痛くないの?」
「しつこいぞ」
そうやって鬱陶しそうに声音を低くして、周りから孤立しようと意固持になっている様はとても滑稽だ。本人に知られたらエクシアで撃ち殺されそうだけれど。
戦闘を終えてトレミーで一息入れているときに、刹那の肩が外れていることにいち早く気付いたのは、少し意外なことにティエリアだった。無理くり外れた肩をはめたのも何故かティエリアだった。予備動作なく肩をはめられて、しばらく毛を逆立てた猫のように目を吊り上げていた刹那を見るのはとても面白かった。僕はサドじゃないのにな、と新たな自分の一面を知ることもできたが、まあそれは脇に置いておいて。
案の定、マイスターの最年長である(と思われるが、ティエリアが年齢不詳で通っているため、それは便宜上のこととなる)ロックオンは、甲斐甲斐しく刹那の世話を焼き、必要以上に構ったために煙たがられる報われない結果になってしまった。ティエリアは刹那の肩をはめた後は知ったことかと次のミッションの書面を眺めている。僕はというと、冒頭の遣り取りの通りだった。
「痩せ我慢は良くないよ」
「我慢はしていない」
「嘘吐き」
「嘘など吐いてない」
彼は絶対に弱音を言わない。出血がひどくてふらふらとしか歩けないときも、誰の手も借りずに部屋へ戻ってしまった。
つくづく人を寄せ付けず、頼らない頑固な子だと思う。頼ることを、何かの罰のように戒めている。もしくは頼るという行為そのものを知らないのかもしれない。だから僕は彼に何度も重ねて訊く。
「痛くない?」
「…、うるさい」
お節介と言われようと、余計な世話だと跳ねつけられようと、彼が根負けして気を抜いてくれるまで。
だからちょっと手伝ってよロックオン!
嘘吐きの舌を愛してた
BSR 慶幸
好きなんだ。
アンタの、嬉しそうな顔がさ。
例えばアンタが好きな団子を食むつくときの、たまらなく幸せそうな顔とか。例えば強い相手と対峙したときの奮い起つ獣みたいな顔とか。纏う雰囲気の落差がすごいけれど。
無邪気だよな、アンタ。すごく周りに左右されるくせに、逐一本気でぶつかっていく。独眼龍にからかわれたり、織田の生意気なガキんちょに侮られたり、忍と意見が食い違っても、アンタはあしらうなんて言葉を知らないみたいに牙を剥く。疲れない?
俺はアンタのその真っ直ぐさが怖いよ。その真っ直ぐさを隠せない無器用さが恐ろしい。
でも、アンタの喜ぶ顔が見たい。アンタの明るい声が聞きたい。アンタに会いたい。
離れてるとこんなにアンタのことだけしか考えられなくなって、そして困ったことに、俺はそれを何て言うか知っている。
アンタがいると胸が暖かくなって、アンタに会えると思うと嬉しくなって、アンタが傍にいないと、少し、寂しい。
アンタはこれが何て言うか、わかるとは思わないけどさ、俺はしょっちゅうアンタにこれの良さをアンタが団子を食ってる横で喋ってるのにも関わらず。きっと、「聞き及ばない病でござるな!医者にお診せになられた方がよろしいのでは?」なんて勘違いするんだろうな。
そしたらアンタの時間を俺にくれよ。今までちょっとばかりからかいすぎてなくしてしまった信頼を戻し、アンタが惚れるくらいイイ男になるからさ。ちょっとやそっとじゃ退かないぜ。俺は諦めの悪い男なんだ。
だからもう少し俺の横で、笑ってくれないかな。
思い出なんていらないから
thanx:風雅