彼に会ったのは、台風の季節だった。
激しく叩きつける雨風の鞭に怯まず、自転車で必死に前に進もうとしていた。勿論、こんな風の中だ、まともに自転車なんて漕げやしない。彼は薄っすら水の流れる道路で横倒しになって倒れたが、何事か叫んでまた立ち上がった。学習したのか、もう、自転車に乗ろうとなんてしなかったけれど。
とにかく、そんな台風の季節だった。