「ザックス、初級休暇とったって聞いたけど、なんで?」
彼のこの言葉を聞いたとき、ザックスは心の底から思い切り脱力した。夏真っ盛りでただでさえ気力はどんどんすり減ってゆくのに。
恵まれているとは言えない育ちの彼ことクラウドは、とかくひねくれて、ストイックとはまた違った意味で色恋沙汰にはかなりシビアでドライだった。ザックスが一夜限りの彼女を部屋に連れ込んで喘がせていたとしても、部屋に閉じこもっているか、どこかへふらついているかして、過去クラウドにはそういう対応で何度か助けられている。経験はないと言っていたし、ザックスがからかえば鼻にしわ寄せて反発しまくっていたけれど、どうにも割り切りが潔すぎるような。一度聞いてみたところ、子供を残すつもりでするセックス以外は気持ち良さを分かち合うだけの娯楽だろと返ってきた。なんつー悲しいことを言うんだ。お兄さんは泣きたい。
そんな歪な殻を持つチョコボの雛にいろいろ手解きを施してやっていくうちに、ザックスは道を踏み外して、どんどんクラウドに傾倒して欲を押し付け始めてしまった。女遊びを控えてクラウドに熱でもあるのかと真顔で心配もされたし、ふざけた絡み酒を装い服をひん剥いたこともある。さすがにそのときは人を殺しそうな目で携帯銃火器を押し当てられたが、おかげでザックスはクラウドに対して女に向けるのと同じ欲と、プレイボーイを自負するザックスにあるまじき純朴な想いがあることを認識してしまったのである。
それからは耐久レースばりにザックスの忍耐力が試されていた。ひねくれ者クラウドは哀れなほど人付き合いというものに不慣れで、神羅で初めてできたに等しい友達としてならば、他の追随を許さないほどの全幅の信頼をザックスに寄せている(といっても、ザックスがクラウドにたかる羽虫を何かにつけ払っているだけなのだが)。そんな信頼関係を、もはや隠し立てしようがないくらいただれている性嗜好で呆気なく破壊するのを厭うほどに、ザックスはクラウドを惜しんでいた。毎日手のひらにお世話になった後は自己嫌悪の日々だ。クラウドを変な目で見る前のあの頃に戻りたいと思いつつも、意識してクラウドを観察して、新しい発見をしては嬉しがっているのである。とんだ二律背反、ダブルバインドだった。
『じゃあ、面倒だし、ザックスが本命見つけるまでの予備扱いでいーよ』
以上クラウド・ストライフの言である。
いわゆる二進も三進も行かなくなって、関係崩壊覚悟で想いの丈を伝えて返ってきたセフレ容認と同義の言葉に、ザックスは今まで以上の目眩を感じた。お前が本命だって、そう、言ってるじゃん。つか、面倒ってなんだよ、泣くぞ俺。
なんでクラウドが承知したのか、その腹の内は全くわからないが、ならば本気でかかってやろうと意気込んだザックスは、次の日から女断ちを始めた。クラウドがザックスの周りから女の気配が失せたことに心底驚いているあたり、ザックスの信用の低さが知れよう。
閑話休題。
なんでと言われれば、クラウドの誕生日を祝ってやりたいからと答えるしかない。
色白金髪碧眼、冬生まれを想起させる見かけを裏切り、クラウドは夏の盛りに生まれている。北国で生まれたらしいので、さぞや育てやすい時季だったろう。村八分にされていた彼は、肉親と隣に住んでいた幼なじみからしか誕生日を祝われたことがないと言っていた。
ここは是非、一人の人間として、友人として、あわよくば一個人の男として、クラウドが生まれてきたことに対する感謝と祝いを捧げたい。ついでに据え膳なんて浅ましいものも狙っているが、クラウドはザックスが彼に致すことを一種の処理と考えているらしいので、そのいただけない思考を訂正するまでは手を出さないと決めているために望み薄だ。
「だって、来月の11日は、お前の誕生日だろ」
「は?」
眉をしかめて振り返るクラウドに、内心 「やべ、もしかして間違えた? でもハッキングしたデータベースにはちゃんと11日だって…」 と焦るザックス。
「…なんでそれでザックスが休暇とるんだ?」
「祝ってやりてぇんだって」
「は? …え?」
どうにも返ってくる反応は芳しくない。というより、ザックスに誕生日を祝われる理由がわからないのだろう。何故そんな面倒なことをと表情にありありと見せるクラウドは、やっぱり育ちのせいで自分など祝ってもらえるはずがないのだとか、後ろ向きなことでも考えているのだろうか。だとしたら下心を抜きにしても、祝ってやりたい。生まれてきてくれてありがとう、とか、お前に会えて良かったとか、言葉を尽くして言ってあげたい。
駄目押しとばかりにザックスは微笑んで、
「俺たち、コイビトだろ?」
反してクラウドはすごく微妙な顔をしていた。
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thanx title:カカリア